CNNの勉強(Ⅰ)-網膜と一次視覚野の構造からネオコグニトロンへ

畳み込みニューラルネットワーク(CNN)はディープラーニングの世界で、かなりポピュラーなものです。しかし、CNNがどのように生命からヒントを得たのか理解している方はどの程度いるでしょうか?CNNを使う立場でも、脳に興味のない方はいると思います。もし、そのような方が当記事にたどり着いくれたなら、この機会にぜひ、脳に興味を持っていただき、CNNと脳の仕組みを考えなおす切っ掛けとしていただければ幸いです。今回はCNNの勉強の一回目として、「網膜と一次視覚野の構造からネオコグニトロンへ」を目標に、記事を書いていきたいと思います。

網膜について

なぜ、網膜の構造から学習するのか疑問を持つ方もいるとおもいます。それは、人間の網膜が脳の一部だからです!人間の網膜は、しばしばCCDやCMOSなどのイメージセンサに例えられます。しかし、イメージセンサは光を電気信号に変換する機械ですので、イメージセンサ+αの働きをする人間の網膜をイメージセンサに例えるのは、私としては違和感を感じます。

イメージセンサ+αの働きをするのは、人間などの脊椎動物の網膜で、タコの網膜のように、単にイメージセンサとしての働きしかしない網膜もあります。そして、タコでは、人間の網膜が+αで行っている情報処理を脳でしています。つまり、人間の網膜は脳の働きの一部が取り込まれたものと解釈できるのです。

人間の眼の網膜構造

図1は人間の眼の網膜の構造を表しています。人間の眼の網膜には光を感知する細胞(これを視細胞という)として桿体細胞、赤錐体細胞、青錐体細胞、緑錐体細胞の4種類が存在します。人間は3色型色覚なので3種類の錐体細胞がありますが、犬猫のように2色型色覚の動物や、鳥のように4色型色覚の動物もいます。以降では人間の眼の網膜に限定して話を進め、網膜といえば人間の眼の網膜を指すものとします。

網膜
錐体細胞
桿体細胞
水平細胞
双極細胞
アマクリン細胞
神経節細胞
図1 網膜の構造

図1において、網膜のグリア細胞であるミュラー細胞*1網膜細胞の維持管理に関与していると考えられる。また、視細胞に分化したという報告もある。脳のグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、シュワン細胞など)は情報処理に関与していることが明らかになりつつあり、ミュラー細胞が今後注目される可能性は否定できない。は省略しています。

図1には上(網膜の奥側)から順に、色素上皮細胞、視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞が描かれています。色素上皮細胞*2網膜内の余計な光を吸収し、散乱を防いでいる。は除き、それぞれの細胞について、分かりやすく表(図2)にしました。

図2 網膜情報処理に関わる細胞の働きとシナプスて伝えられるもの

フォトダイオードの役割を果たす視細胞は、桿錐体層を成しており、これがイメージセンサに対応する働きをしています。その内側の層には、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞が分布し、タコが脳(正確には視葉)で行っている処理を行います。

視細胞による光の電気信号(受容器電位)への変換

視細胞が光をどのような電気信号へ変換するのか触れておきます。受容器電位は視細胞に光が当たることで発生する膜電位で、光の当たり方により、変化が異なります。図3のように、インパルス的なフラッシュ光があたると、光の強さに応じた電位が現れます。一方で、図4のような持続的な光に対してはコンデンサのように時間的な微分作用をもつ変化をします。

図3 フラッシュ光に対する受容器電位の変化
図4 連続光に対する受容器電位の変化

中心周辺拮抗型受容野

受容野とは、感覚系ニューロンに活動の変化を起こすことが可能な空間的領域のことです。視覚系では中心周辺拮抗型の受容野が使用されているので説明します。ちなみに、中心周辺拮抗型の受容野は他の感覚系でも多く採用されている重要な受容野構造ですので、別の回でも触れる予定です。視覚系で、中心周辺拮抗型の受容野をもつ細胞は、中心部と周辺部が補色関係にあるとき、最も興奮を示します。種類を図5に示しました。

図5 視覚における中心周辺拮抗型受容野の種類

補色とは、互いの色が最も強調される組み合わせで、網膜では白と黒、赤と緑、青と黄の補色を認識する中心周辺拮抗型受容野が使われています。また、それぞれにON中心型とOFF中心型があります。

白黒は、 明暗を認識する桿体細胞を入力として受けることで実現できます。赤緑は赤と緑の錐体細胞を入力として受けることで実現できます。青黄は、2つの錐体細胞では実現できませんが、3原色を利用し、3つの視細胞を組み合わせることで実現できます。

視覚系において中心周辺拮抗型受容野は、双極細胞が起点になり、神経節細胞、外側膝状体、一次視覚野と伝わるなかで使用されます。

シナプスでの符号変換作用

シナプスによる符号変換作用は、外部感覚を電気信号に変換する細胞(視細胞など)からのアナログ電気信号を入力として、中心周辺拮抗型の受容野を形作るときに必要な仕組みで、網膜では、双極細胞の中心周辺拮抗型受容野を形成するときに使用します。つまり、光が当たると視細胞の膜電位が過分極しますが、双極細胞の中心部付近の入力(直接経路)と周辺部からの入力(関節経路)のうち一方を反転(符号変換)し、拮抗関係にする必要があるのです。ON中心型であれば直接経路で、OFF中心型であれば関節経路で符号変換が行われます。


ー私がちょっと気になったこと!ー

神経節細胞では直接経路や間接経路に符号変換作用があるのでしょうか? 文献を探しても見つかりませんでした。少し考えた結果、符号変換の必要がないだろうという結論に至りました。ON中心型受容野を持つ神経節細胞であれば、受容野の中心付近にON中心型の双極性細胞が、受容野の周辺はOFF中心型の双極細胞が繋がればよいからです。


側方抑制

図6 側方抑制によるコントラストの強調

側方抑制は、ある細胞が反応したときに、その周囲に存在する細胞が反応しにくくなるように抑制することです。例として桿体細胞を入力とするON中心型受容野の双極細胞を考えてみます。この受容野に左図のような中心付近がボヤ~と明るい光を当てます。このとき、中心付近の視細胞が最も反応し、周辺の視細胞へ側方抑制がされます。周囲から中心付近への側方抑制も行われますが、明るい方から周囲への側方抑制が強いため、結果的に右図のように中心付近のみが明らかに明かるく映ります。つまり、側方抑制にはコントラストを強くする働きがあるのです。この側方抑制の過程で、周辺の受容野をカバーする水平細胞とアマクリン細胞が関与していると考えられます。

双極細胞からのアナログ電気信号を一次視覚野まで伝えるには、距離が長いためデジタルに変換する必要があります。この働きをするのが、神経節細胞です。

網膜の情報処理を一文で表すと

網膜の情報処理を一文でまとめると、「カラー画像を、光の明暗(白黒)画像、赤緑画像、青黄画像に分け、補色を利用した中心周辺拮抗型受容野+側方抑制を駆使することでコントラストを強調させている」といえます。

網膜から視覚野へ

図7 網膜から一次視覚野へ

視交叉

左右の眼に入ってきた像はそのまま、脳へ伝わるわけではありません。視交叉*3立体視に関与していると考えられているという部位で、左側風景と右側風景に分離されます。

外側膝状体

外側膝状体では視交叉からの情報を中継し、一次視覚野の対応する部位へ投射します。詳しいことは分かりませんが、一次視覚野からのフィードバックも受けているようです。

視覚野

視覚野では視覚情報処理を行っています。視覚野は図8の色が塗られている部分で、後頭葉から頭頂葉にかけて位置しています。

図8 視覚野の位置

視覚野は一次視覚野(V1)、二次視覚野(V2)、V3、V4、V5に分かれています。以降で説明する単純型細胞と複雑型細胞は一次視覚野に位置しています。

視覚野の情報処理

感覚系では中心周辺拮抗型の受容野を持ちましたが、視覚野からは、より複雑になります。視覚野では、特定の位置にある特定の傾きの線分を認識する単純型細胞(Simple Cell)、特定の傾きの線分が移動しても認識する複雑型細胞(Complex Cell)があります*4超複雑型細胞も存在する。。この細胞はヒューベルとウィーゼルの実験で発見され、興奮領域と抑制領域が明瞭なのが単純型細胞、明瞭ではないものが複雑型細胞と定義されました。

単純型細胞

単純型細胞は図9に示すように、中心周辺拮抗型受容野をもつ外側膝状体の神経細胞が直線状に並んで、一次視覚野の単純型細胞へ入力されます。受容野は楕円形で、少しずつ異なる角度の線に反応する単純型細胞が個々に存在します。

図9 外側膝状体からの視覚野の単純型細胞への入力

図10は、視野の内部において、図9で示す縦線を認識する単純型細胞が反応を示す領域のイメージです。

図10 視野から見た単純型細胞の受容野のイメージ

複雑型細胞

単純型細胞は特定の位置に映る特定の傾きの線に対してのみ反応しますが、高次の知能を実現するには線の位置が多少動いても、線は線として同様に認識する必要があります。このような位置ずれを許容する細胞が複雑型細胞です。これは、同じ線の特徴に反応を示す単純型細胞を複数入力とする受容野を持つことで、位置ずれを許容できる複雑型細胞を構成できます。図11は、 縦線を認識する単純型細胞が8つ並んだものを入力として受ける複雑型細胞の例です。

図11 複雑型細胞

図12は、視野の内部で複雑型細胞がどのような範囲をカバーするかをイメージしたものです。

図12 複雑型細胞の受容野のイメージ

ここから予測できる構造

単純型細胞と複雑型細胞で、階層的に処理が行われていることから、上位層へ進むにつれて、ミクロからマクロへの階層的な処理が続く構造を予測することができます。

ネオコグニトロン

ここまでの内容をモデル化していきます。まず、モデル化のポイントを以下に3点示しました。

  1. 網膜では画像を受けとり、コントラストの抽出を行う。
  2. 一次視覚野の単純型細胞(S細胞)は、エッジなどの特徴を抽出する。
  3. 一次視覚野の複雑型細胞(C細胞)は、位置ずれの許容をする。

1は網膜で行われるため、階層的な繰返しはおこりません。一方で、2と3は大脳皮質で行われており、階層的に繰り返されます。これをモデル化すると以下の図のようになります。

図12 ネオコグニトロン

これがネオコグニトロンです。余談ですが、ネオコグニトロンのS細胞層は、畳み込みニューラルネットワークの畳み込み層に、C細胞層は、プーリング層に対応します。

これで、一旦「CNNの勉強(Ⅰ)-網膜と一次視覚野の構造からネオコグニトロンへ」を終わりにします。CNNの勉強(Ⅱ)では視覚野の方位選択性コラムを教師なし学習で実現する、自己組織化マップについて説明しています。ぜひ、読んでみてください!

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References   [ + ]

1. 網膜細胞の維持管理に関与していると考えられる。また、視細胞に分化したという報告もある。脳のグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、シュワン細胞など)は情報処理に関与していることが明らかになりつつあり、ミュラー細胞が今後注目される可能性は否定できない。
2. 網膜内の余計な光を吸収し、散乱を防いでいる。
3. 立体視に関与していると考えられている
4. 超複雑型細胞も存在する。

CNNの勉強(Ⅰ)-網膜と一次視覚野の構造からネオコグニトロンへ” に対して1件のコメントがあります。

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